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お慈悲にすがる その2

 

私が僧侶を務めている養命寺に、ある時、水子供養申し込みのお電話がありました。

 

「10年前の赤ちゃんですが、ご供養できますか?遅かったですか?」

 

 私は「いつであっても大丈夫です。赤ちゃんの事を思う今のお気持ちこそが大切ですよ。一緒にお経を勤めましょう。」

 

お母さんは喜ばれてお寺においでくださいました。

 

法要を勤める中で「赤ちゃんを決して見捨てない阿弥陀様です。そして、お母さん、あなたの事も必ず極楽浄土にすくい取ってくださいます。今までどんな姿であっても、どれほど迷ってきても、今の思いを受け止めてくださる仏様です。命の往く先、必ず赤ちゃんと同じ浄土に往けるんです。共にお念仏をお唱えしましょう。」

 

法要の中で、お母さんのすすり泣く声と、お念仏の声が聞こえました。

 

法要を終えると、お母さんからお声掛けいただきました。

 

「今まで、10年間ずっと下を向いてる生活でした。赤ちゃんの為に何かしてあげたい。でも何をしていいのか。何に頼っていいのか。判らない事だらけ。下を向くしか出来ない10年でした。

 

でも、今日思い切って養命寺にきて良かった。ようやく、赤ちゃんをお任せできる仏様に出会いました。

 

こんな私でも赤ちゃんの為に出来るお念佛に出会いました。しかも私も赤ちゃんと同じところにいつか行けるんだと。

 

赤ちゃんが生き返る訳じゃないし、時間が戻る訳じゃないけれど、でも、良かったです。お念仏忘れません。有難うございました。」

 

そういって、笑顔で帰られました。

 

私はその時ハッとしました。

 

そうだった。私は当たり前のように阿弥陀様に出会っているけれど。もし出会えていなければ、大切な方を亡くした時に絶望しかない。悲しみしかない。それが、私は幸いにも仏に出会わせていただいていたんだ。お念仏の教えに出会わせていただいていたんだと、気づかせていただきました。

 

石巻のいのり大仏が屋内ではなく多くの人の目に留まる場所に建立されましたら、多くの方が阿弥陀様と縁を結ばれる事でしょう。

 

今悲しみの中にいる方々にとってかけがえのない祈りの場所となり、未来に悲しみを背負う方々の為にも阿弥陀様との縁を結ぶ大切な場所となる事でしょう。

 

多くの方の祈りの場、結縁の場の為に。

 

皆様のお力添えを、どうぞよろしくお願いいたします。

 

 

静岡県藤枝市養命寺住職 安井隆秀上人