大佛勧進連続法話「お慈悲にすがる」その3
これは私の預かるお寺のお檀家様の話でございます。
「かっちゃん」と呼ばせてもらえるほどに、親しくさせて頂いたお方がありました。
令和5年6月6日。かっちゃんから一本の電話がありました。
「和尚さん。前から話してるガンの事だけどね、昨日、とうとう余命宣告されてしまったんよ。
まだこんなに元気なのにね。お医者さんがもうダメって言うんよ。今からだんだん悪くなって、痛みも出てくるって。あと1ヵ月ぐらいだろうって。
だから昨日、緩和ケア病棟に移ったんよ。もうお寺にお参りが出来んくなってしまったから、お礼を言っておこうと思ってね。」というお電話でした。
その時にかっちゃんに聞きました。
「お見舞いには行けるの?」
その答えは「大丈夫」
すぐに病院へ伺いました。
「かっちゃんに、仏様に触れられる何かを届けたい。」
そう思って、本堂の阿弥陀様の手に結ばれている五色の紐を少し頂戴して
「かっちゃんこれね、うちの阿弥陀様の手に繋がってた紐だからね。かっちゃんも知ってるでしょう?阿弥陀様の手に繋がってたあの紐。あれを少しもらってきたからね。だから病院にいても、ずっと仏様と繋がっていられるからね。大丈夫だからね」とその紐を渡しました。
かっちゃん、涙を流しながら受け取ってくれました。
病室でいろんな話をしました。
笑いながら2人で戒名も決めました。
面会が終わる時に「また会おう」と約束して一緒にお念仏をお唱えしました。
それから3週間ほど経ったある日、かっちゃんから電話がありました。
まだまだ元気そうな声でした。
「かっちゃん。またお見舞い行っていい?」
「いいよ。いっつも退屈してるから会いに来て。」
とそんな会話も交わして…。
再び訪れた時、かっちゃんの手には五色の紐が、まるで指輪のようにしっかりと握られていました。
「この紐もらってから、ずっと仏様と一緒にいる気がして毎日お念仏しよるんよ。そしてお念仏してお腹を撫でよるんよ。そしたら気持ちがゆったりなるんよ。すごいね」
と笑顔で話してくれました。
そんなかっちゃんが旅立っていったのは7月16日の事でした。
静かに目を閉じているかっちゃん。
とても穏やかで、とても柔らかく、少し微笑んでいるような優しいお顔でした。
きっと五色の紐をぎゅっと握って、全てを阿弥陀様に委ねて、大きな安心の中に旅立ったんだろうなぁ。
やわらかな光に包まれてさ……。
今、宮城県石巻市の「祈りの杜」では、五色の紐ではなく、直接、仏様へ触れられる阿弥陀様を迎える準備をしています。
それが「いのり大佛プロジェクト」です。
その仏様に触れる事で、どれほどの苦しい思いを安らぎに変えていただける事でしょうか。どれほど多くの方の心が平穏になる事でしょうか。
どうかその日が早く来ますように、心から祈りを込めて、「いのり大佛建立」の為に、尊いご喜捨を頂けますようにお願いを申し上げます。
皆様のお力添え、なにとぞよろしくお願いいたします。
福岡県常福寺住職 堀田顕英上人
かっちゃんの指に巻かれた五色の紐。
阿弥陀様と決して離れることはありません。