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お慈悲にすがる その4

神戸在住の僧侶である私と東日本大震災のご遺族の皆様とのご縁は、極楽浄土の蓮の台(うてな)での再会を願う震災遺族会「蓮の会」に、私が僧侶として参加させていただいた事がはじまりです。

 

 

東日本大震災発災から一年が経とうとする頃

そんな蓮の会に参加されているお母様の御一人が

涙を堪え、心の中の悲痛な叫びを私にお話し下さいました。

 

「和尚さんは極楽のお話をして下さるけれど

今すぐ亡き息子に会えるなら、今の私には、それが地獄でもいい」と。

 

僧侶として恥ずべき事ですが

そのお言葉に只々頷く事しか出来なかった事を

まるで昨日の事のように思い出します。

 

それから12年の歳月が流れ、蓮の会の皆様が極楽浄土の仏様

阿弥陀如来の大仏様を建立したいと願いをおこされました。

 

「様々な想いを仏様に預け、自分自身も極楽浄土へ救ってもらいたい」と、願われての事です。

 

皆様のこの12年の心模様は、私が千言万語を費やしても表現し得ない

深い悲しみと苦しみの連続であったに違いありません。

そして、それらは形や色を変えながら今も変化し続けている事でしょう。

 

そんな心の変化を、ご遺族の御一人は

「今も哀しみは変わらないが、今は静かに思いを向ける、愛おしい哀しみに変わってきている」と、前向きにお話し下さいました。

 

 

極楽浄土で「また逢える」という希望を原動力に

阿弥陀様に、亡き人の事をお任せし、祈り続け、願い続け、信じ続ける事により

その涙が結晶となり、いま石巻の地に大佛様が建立されようとしています。

 

 

 

阿弥陀様は、私達がどんなに辛くても苦しくても

それら全てを受け止めて下さり、その気持ちの奥底までをご理解下さり

もう二度と苦しむ事がないようにと

亡き人の事も、そして私達の事も、極楽浄土へお救い下さる仏様です。

 

それは震災に限った話ではありません。

様々な形での死別や、この世を生きていく中での苦しみ、怒り、迷い…

自分の力ではどうする事も出来ない、そんな苦しみ多き私達だからこそ

そんな私達の為に極楽浄土を構え

我が名を唱える(念仏)する者を「必ず救う」とお誓いの仏様です。

 

 

東日本大震災をご縁としてお迎えする、この「いのり大佛」様が

今も、これからも、様々なご縁の中で多くの方々の祈りの場となり

300年後も、1000年後も、多くの方々の想いを受け止め

心の拠り所となることを、私は心から願い、それを心から喜びたいと思います。

 

そして、この喜びを更に多くの皆様と共有する事ができれば

先立たれた多くの皆様はもちろん

何より阿弥陀如来様が一番に、この有難きご縁をお喜び下さる事でしょう。

 

過去・現在・未来を繋ぎ続ける大仏様でありますように。

どうか「いのり大佛」様とご縁をお結び頂き

大佛様建立へ、皆様のお力添えを宜しくお願い申し上げます。

 

そしていつの日か極楽浄土の蓮の台で

多くの皆様と思い出話に華を咲かせられたなら

こんなに幸せな事はないでしょう。

 

また逢えると信じて。

南無阿弥陀仏

 

 

兵庫県東極楽寺副住職 小林善道