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地域寺院90号掲載(2023年11月号)

仏像が誕生するとき「第13回」取材・文 君島彩子

 

東日本大震災の被災地に「いのり大佛」

 

 

十三回忌に発願される仏像

 

東日本大震災による津波などによって亡くなられた方々の13回忌に当たる今年、遺族の心の拠り所となる「いのり大佛」が発願された。 津波などの被災の大きかった地域には既に慰霊碑などのモニュメントが数多く建立されている。文字の刻まれた碑 、そして震災遺構の保存によるモニュメント化は 、 地震の後には津波が来るという教訓、そして地震や津波によって亡くなった方々の記憶を残そうと建立される 。他方で仏像は、記録、記憶を次世代につなぐだけでなく、心のよりどころとなる存在でもある 。

 筆者のこれまで調査で慰霊追悼のためのモニュメンタルな仏像は十三回忌前後に建立されることが多い。震災の記憶が薄れはじめる十三回忌という節目は 、新しい生活に少しずつ慣れる時期であると共に、亡くなった方々への思いを受けとめてくれる存在が必要とされる時期と言えるのではないだろうか。

 

全ての思いを受けとめてくれる大佛

 

 東日本大震災で甚大な被害を受けた宮城県石巻市の門脇小学校 そば、「祈りの杜」に、西光寺(浄土宗)の住職・樋口伸生氏を代表として西光寺遺族会「蓮の会」が中心となり「いのり大佛」を建立する予定だ。遺族会の中には子供を失った母親も多い。遺族の方々は今まで仏教にあまり関心がなかったが、悲しい気持ち 、やりされない思い、愛しい感情 、全ての想いを預け、自分自身を救い取ってもらい 、そのような想いを受け止め 、支え、助けてくれる存在を考えたとき 、実際に目に見えて、手に触れることが出来る大佛が必要であると感じたという 。生き残ったからこその苦悩、その辛さの中で生活してきたからこそ寄り添う存在として大きな仏様が必要とされたのだ。

 

   

3年後の完成を目指し勧進

 

「いのり大佛」は、台座を含めて、高さ約5メートルの石でできた阿弥陀如来坐像となる。大佛の制作監修は仏師の村上清氏がおこない、本年8月には6分の一 サイズの石膏原型像が西光寺に届き 、檀家らにお披露目された。この石膏原型像を調整しながら拡大し石像とするには長い制作期間、そして数千万円の費用がかかる。現在 、3年後の完成を目標に寄付を募り、制作が進められている。 プロジェクトの代表を務める樋口住職は「年月がたっても、大佛ができても 、愛する人を失った悲しみは消えないが 、生き残った人を支える祈りの場になればいい。」と語る。そして「いのり大佛」は、震災以外にも様々な悲しみや苦悩を受けとめる存在として、遠い未来まで人々に寄り添い続けるだろう 。

 

 

(現在、プロジェクトでは広く寄付を募っている。連絡先は西光寺 0225-22-1264)

 

 

 

君島 彩子

東京都生まれ。和光大学表現学部芸術学科専任講師。専門は物質宗教論、宗教美術史。

著書に『観音像とは何か―平和モニュメントの近・現代』(青弓社、2021年)